国際生物多様性の日記念イベント
農薬と生物多様性とのつながりを考える
毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」です。「食と農から生物多様性を考えるネットワーク(食農市民ネット)」は毎年、この日にあわせてイベントを開催し、生物多様性の問題を広くアピールすることに取り組んでいます。今年は5月23日、池袋駅に近い豊島区民センターでシンポジウムを開催し、およそ60人の参加がありました。
◆安全性審査は数字のトリックか? 日本では残留基準が緩和
まず基調講演として、ジャーナリストの岡田幹治さんに「生物多様性を脅かす農薬〜ネオニコチノイド系農薬を例に〜」のタイトルでお話しいただきました。
「ネオにコチノイド系農薬は、1990年代に開発され、2000年を過ぎてから急速に普及しました。ヒトの健康に害が少ないという触れ込みで出てきましたが、そんなことはありません」と岡田さん。ミツバチの大量死で毒性が問題視され始め、EU(欧州連合)が、2013年5月に暫定的な使用制限を決定、米国も今年(2015年)4月、ネオニコチノイド系農薬の新規登録を凍結すると発表しました。それにひきかえ日本は、「欧州や米国と比べてもともと緩やかな残留基準をもっと緩めようとしています」「たとえばホウレンソウはこれまで3ppmだったのが、一気に40ppmになります」と、岡田さんは日本政府の姿勢に首をかします。この規制緩和の根拠となった急性毒性と慢性毒性の算定方法を、メーカーに都合のいい「数字のトリック」だと指摘しました。
基調講演を受けて食農市民ネット共同代表の河田昌東さんは、遺伝子組み換え作物の安全性審査について、「細かい計算をして安全性が確保されているように言われますが、メーカーの実験結果にもとづく申請書をチェックするだけです」と、安全性審査の問題点を強調。また、ジカンバや2,4-Dなどベトナム戦争時に「枯葉剤」として使用された除草剤に抵抗力を持つ遺伝子組み換えダイズやトウモロコシが、米国で認可される2年も前に日本で認可され、日本でジカンバの残留基準が緩和されたことについて、「農水省や厚労省の専門家たちは、人間の健康よりも工業的農業を優先しているのではないか」と批判しました。
◆つぎつぎと開発される除草剤耐性作物の危険性
同じく食農市民ネット共同代表の天笠啓祐さんは、複数の除草剤に抵抗力をもつ遺伝子組み換え作物が次々と開発されていることについて、これらの作物に使われる農薬にはアミノ酸の合成を阻害する除草剤が多く、「アミノ酸をつなげてタンパク質を作るのが遺伝子の基本的な働きであり、それはすべての生き物に共通です。その働きを阻害するということは、人間も含めてあらゆる生物に健康被害が広がる可能性があります」と危険性を指摘しました。「米国では除草剤を撒いても枯れないスーパー雑草が広がっています。ある除草剤が効かなくなると次から次へと新しい除草剤を使う。抗生物質耐性菌とまったく同じ構造です」。
参加者からは農薬に頼らない暮らしを実現する方法などについて質問が出され、この日のイベントは、生物多様性と農薬について議論するよいきっかけとなりました。
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